おふくろの味を追求し続ける都内唯一の味噌蔵がここに!中村橋にある「昔みそ 糀屋三郎右衛門」に行ってきた

6月15日、筆者が取材申し入れの電話をすると、
「明日仕込みあるからもしよかったらいらっしゃいませんか?」
突然の申し入れにも関わらず、翌日が月に一度の仕込みの日ということで、早速伺ったのは東京都内で唯一の味噌蔵を構える昔味噌の「糀屋三郎右衛門」である。

明治時代に茨城県で創業したという「糀屋三郎右衛門」は、昭和14年に練馬で味噌工場を建て、以来、80年にわたりこの練馬の地から食卓に味噌を届けてきたのである。

西武池袋線中村橋駅から閑静な住宅街を8分ほど歩いたところに現れたのは昔ながらの佇まいの蔵元。

入口へむけて歩みを進めると、ほのかに薫る大豆のかほり。
伺った時間は、まさに仕込みの最中であった。

こちらが「糀屋三郎右衛門」七代目の辻田雅寛さん。気さくに取材に応じてくれた。

さまざまな仕込みを経て大豆を圧力釜で蒸かしていると「ブフォー」という大きな音とともに吹き上がる蒸気でたちまち辺り一面が真っ白に。

吹き出す蒸気が抜け切ると、圧力釜をたおして今度は蒸しあがった大豆の余熱を取る作業が始まります。
やさしい大豆のかおりが立ち込める中、豆を大きなしゃもじ(ぶんじ)で丁寧に均(なら)しながら、風をあて大豆の熱をとっていく作業は手際よく流れるように進み、秤(はかり)で均等に大豆の分量をわけどんどんと桶に入れていきます。

ずっしりと大豆の入った桶を女性もひょいと持ち上げるのに感心していると、別の場所ではもう違う作業が始まっています。

今度は、味噌の発酵に欠かせない糀(こうじ)と熱をとった大豆を攪拌機で合わせる作業。繰り返し大豆と糀を入れる作業は、大豆が粗いまま木桶に詰め込まれないように、しゃもじさばきもルーティーン化されており見ていて気持ちがいい。そこにさらに味噌が加えられる。

糀屋三郎右衛門七代目である辻田雅寛さんにこの工程についての話を聞いてみると、

─実は発酵食品って面白くて、糀菌もいろいろあって環境によって増える菌が決まっているんですよ。それを自然で出てくるまで待つと風味豊かな美味しい味噌づくりには邪魔な菌が出てくる可能性があるんですよ。

─その菌のバランスで実際に味が決まってくるので、英語では「スターター」って言うんだけど、その欲しい菌が入っている物を加えてあげると、その菌が先に増えるんですよ。そして、菌って面白くて、環境によって増える菌決まっているので、欲しい菌が増えていくと、その菌がいっぱい繁殖して他の菌が繁殖しづらくなるんですよ。

─そうすると、仮に5つの種類の菌が繁殖できる環境だとして、一番欲しい菌を「A」とすると、その「A」が含まれたものを最初に入れてあげることによって、その環境の中で優位性を保つわけですよ。ただ、人間の舌ってデジタルではないので、検出機が検出するわけではないから、「A」という菌が本当の味を決めているんだけれど、それだけだと複雑な味に感じないんだよ。本来、味の構成的に他のものはいらないんだけれども、他のものが入っている事によって味に深みがでるとか、そういう表現ができるようになるので、糀屋三郎右衛門では、菌単体を入れるのではなくて、いらないものが入っているかもしれないお味噌も入れる事により風味をより深く、美味しい味噌になる工夫をしている。

そうして出来たのはずっしりとした出来立ての味噌。これを長いものでは1年近く寝かせるという桶にいれていく。淡々と桶に移し替えては、また新たに大豆と糀を攪拌する。

一つ一つの作業はすべて人の手で行われていて、一切の妥協を許さないのが伝わってくる。伺った日は助っ人の方がいたものの、これらのチカラ仕事を普段は、辻田さんとその息子さんである次男の宥樹さん、そして女性2人でやっていると聞いて驚いた。
確かに、見るからに重そうな桶に入った味噌を華奢な女性の方がヒョイと肩にのせ何往復もしているのだから人は見た目によらないなぁと感じたが、男性の筆者でも同じようにはできないなぁと感心せざるを得なかった。とにかくチカラ仕事の連続である。

それにしても、家業とはいえ、継ぐことに抵抗はなかったのか。本音の部分を聞いてみた。

─継いだのは今からちょうど33年くらい前の27歳くらいのときかな。いやでもね、こういったらなんだけど…元々そんなに継ぐつもりもなかったのよ(笑)

そう笑って答える辻田さん。

─ただ、漠然と(この味噌が)無くなってしまうのは嫌だなと。そう言うのがあって嫌々継いだ訳ではないんですよ。

─あの、自分の所の味みたいなものを含めて、その味が身体の奥底にDNAのように深く組み込まれているわけよ。だから単純にみんなに食べてもらえなくなるのと、自分でも食べる機会がなくなるのが嫌だったんですよね。

たしかに、筆者も離れた実家に帰りお味噌汁を飲むと落ち着く。あの感覚はお味噌汁ならではである。

─でも(家業で)こういうことをやっている人なんかは特にそうなんだけれど、みんな発酵系の大学で勉強することが多いんだけれど、ぼくも「(そういう大学に)行ってくれ」言われたんだけど、それが凄く嫌だった。(笑)でも別に味噌つくりが嫌いだったわけではない。

─それでぼくは大学で化学を専攻した(笑)。有機ではなく無機を勉強していたから、ここで味噌づくりをする前は、1年間筑波にある食品総合研究所(現 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)に発酵(味噌・醤油)の研究に行って勉強してから、継ぐ形で当時いた工場長にイロハを学んだんだよね。

真剣な顔付きになり当時を回想してくれた。
この味を守りたいと7代目までバトンをつなげてきた「糀屋三郎右衛門」。
最後に、今後の味噌づくりのビジョンと課題を聞いてみた。

─これからも形態的には(味噌づくりの手法は)変わらないと思う。モノづくり自体はあまり変わらない。味噌に限らずお醤油、お酒の業界もそうなんだけれど、基本的な作り方や材料は変わらないから合理化できるところを突き詰めるくらいしかなかったりするんだよね。

─そういう部分もあって、あえて手作りという安定しない作り方をしていることがアピールポイントといえる。ただ、糀屋三郎右衛門で直面している事なんだけれど、販路も含めた流通経路にいかに対応できるかということ。

─お味噌の味は誰もが頻繁に変えたりしない。結婚をした場合、奥さんの味噌の味になる場合が多いが、高齢になるにつれ、昔の味が恋しくなる。東京というのは、地方から出てきてる方も多いので、地方でしかない味というよりは、クセがなくどの人が食べても味として美味しいと認識できる物を作っている。

─「糀屋三郎右衛門」の味噌は、大多数の人が好むような最大公約数的な…すなわち癖がない味にたどり着いたと思う。地方のお店に比べると冒険はないのかもしれない。ただ、特徴を聞かれたら、「できるだけ特徴が出ないようにするのが特徴です」という。これが、北海道から沖縄まで買っていただけている理由でもあると思う。

練馬高野台駅にある雪華堂Emio 練馬高野台店などで昔みそまんじゅうが買える。芳醇な味噌の香りで美味しい。お茶がすすむ和菓子である。

風味を尖らさず、あえて旨味や匂いに地域性を出さずに万人に愛される味噌となるように日々味噌つくりに真摯に向き合う辻田さん。
整備された機械のみでつくる味噌工場では出せない手作りによる日本古来の良さが詰まっている蔵元。
この味噌で毎日の食卓に「香り」の彩りを添えてみたい。
そう思えた一日だった。

店舗情報
昔みそ 糀屋三郎右衛門
営業時間:月~金 10:00~17:00
定休日:毎週土曜日、日曜日、祝日
住所:東京都練馬区中村2丁目29-8
アクセス:西武池袋線中村橋駅から徒歩約7分
駐車場:あり
駐輪場:あり

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