東京”3大名門公立小”に通わせる親の吉凶

東京には「3大名門公立小学校」と呼ばれる学校がある。そこに通うには、決められた学区に住んでいる必要があり、そのために引っ越す家族もいる。中学受験塾を経営する矢野耕平氏は、「そうした名門校は中学受験する子がほとんどだが、だからといって学習環境がいいとは限らない」と指摘する——。

■「名門公立小学校の学区です!」が不動産広告のうたい文句になる

親であれば、わが子に対して「より良い教育環境を整えてやりたい」と願うものだ。そうした動きの象徴として「学区を踏まえた住まい選び」が挙げられる。

子が生まれれば家は手狭になる。そして賃貸住宅からマイホームに移り住むには、「第一子の小学校入学」というタイミングがちょうどいい。そこで「学区」という条件が注目される。私の経験上、こんな悩みを抱える親は少なくない。

「わが子が充実した6年間を過ごせる小学校はどこなのか?」

「学級崩壊状態の小学校にはわが子を通わせたくない」

「中学受験を考えているが、どの公立小学校ならその準備を進めやすいのか?

「親同士のトラブルが少なそうな小学校を選択したい」

不動産情報誌では「学校力調べ」というタイトルで教育環境のいいエリアを特集。

不動産の物件広告では、「名門・○○小学校の学区です!」などとうたっているものがよくある。また駅の構内やコンビニなどで見かける不動産情報誌でも、「エリア別の教育環境」が大きな見出しになっている。

果たして、同じ公立の小学校とはいえ、学区や学校の違いによって学力伸長の度合いは変わるのだろうか。今回、わが子を「名門公立小学校」に通わせていた、もしくは現在通わせている親たちに話を聞いたところ、意外な声を耳にした。

■私立中学受験率が90%を超える公立小学校もある

わたしは中学受験専門塾を営み、世田谷区奥沢と港区三田に教室を開いている。

近隣の小学校を見ていると、中学受験に対する「温度差」が小学校によってかなり違っていることを実感している。確かに親の教育意識、中学受験比率が飛びぬけて高い小学校があるのだ。そして、その近隣の公立小学校は反対に中学受験比率がかなり低く、大半の子が地元の公立中学校へ進むところもある。同じエリアであっても、小学校によってこんなに違いがあるのだ。

たとえば、前者のタイプの小学校に通う子の保護者は教育熱心な人が以前から多い。中学受験率も極めて高く、合格者を輩出している「名門小」という認識が、塾関係者の間にある。

■難関中学に合格者を輩出する都内「名門公立小」リスト

世田谷区立 松沢小学校(赤堤)・松丘小学校(弦巻)・桜町小学校(深沢)・八幡小学校(奥沢)
港区立  白金小学校(白金台)・青南(せいなん)小学校(南青山)・笄(こうがい)小学校(西麻布)
千代田区立 番町小学校(六番町)・麹町小学校(麹町)
文京区立 誠之(せいし)小学校(西片)・千駄木小学校(千駄木)・窪町小学校(大塚)
大田区立 田園調布小学校(田園調布)
目黒区立 東山小学校(東山)
品川区立 御殿山小学校(北品川)・第三日野小学校(上大崎)
中央区立 久松小学校(久松町)・泰明(たいめい)小学校(銀座)

このうち番町小学校、白金小学校・青南小学校は「東京3大名門小学校」と呼ばれることもある。

これらの学校の私立中学受験率は70〜95%くらいに達する。わたしがヒアリングした中には、クラスの35人中、私立中学校を受験しなかった子はたった1人だけだったというケースもあった。首都圏(1都3県)の私立中学受験率が約14%なので、これらの小学校はまさに「別格」である。

■名門小学校はわが子にメリットをもたらすのか?

▼目黒区の名門公立小学校のケース

「いやあ、やっぱり中学受験率の高い学校に入れてよかったです」

意気揚々とこう話してくれたのは目黒区の名門公立小学校に息子さんを通わせた母親Aさんだ。聞けば、家庭の方針として子が中学受験をするのは最初から決まっていたという。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/JGalione)

「何しろ、大半が中学受験組ですから、親があの手この手を尽くして中学受験を勧めなくても、周囲がみんな塾通いしているし、中学受験をするのが当たり前という雰囲気だったので、息子もすんなりとその道に足を踏み入れることができました」

この母親は「ただ……」と一呼吸置いて、こう切り出した。

「みんなが塾に通っているので、そもそも普段遊ぶ友達がいないんです。これはちょっとどうなんだろう……と思ったことはあります」

■タワマン林立するエリアの公立小学校に学級崩壊が多いワケ

▼江東区の公立小学校のケース

一方、タワーマンションが林立し、年々生徒数が激増の一途をたどる江東区の公立小学校の母親Bさんはこう語る。

「私立中学校に進む子は全体の7割くらいです。良かったのは塾に行くのが当然という雰囲気なので、勉強に積極的ではなかった娘も自然と中学受験体制に入れたことです」

中学受験率の高い小学校の教員は、やはり中学受験を志す子どもたちに理解を示すのだろうか。このBさんは学校教員の理解があったことに感謝している。

「中学受験勉強に打ち込んでいる子どもたちの大変さは担任の先生も十分わかってくれていましたよ。むやみに宿題を課すようなこともないし……そこは恵まれましたね」

しかしながら、この母親は娘の6年間を振り返ると、この小学校に通わせるべきではなかったと後悔している。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/y-studio)

「近隣にタワーマンションが続々と建てられていますから、どんどん生徒数が膨らんでいくんです。そして、問題だなあと感じたのは、学級崩壊状態に陥った学年が多いこと。原因はさまざまだとは思いますが、このエリアは共働き世帯が中心。学校で問題を起こす中心は決まってそのような世帯の子。いまの時代、共働きは当たり前だと思います。でも、自分の子が学校で何かしでかしても、『忙しい』と全く学校に顔を出さない。だから、事態は悪化するばかり。卒業式でもそんな調子でしたから、それを目にすると何だか悲しい気持ちになっちゃうんですよね」

こう証言したBさんの娘さんも、自分の小学校があまり好きではなかったらしい。

この点に関する話として、わたしは以前プレジデントオンラインで「『仕事命』の親の子が学級崩壊させる理由」という記事を執筆した。ぜひご参照いただきたい。

■名門小学校だからこそのトラブルもある

▼世田谷区の名門公立小学校のケース

世田谷区の名門公立小学校に3人の子どもを通わせていた母親Cさんはため息をつく。

「教育意識が変に高い親ばかりでしたから、わが子の中学受験勉強の様子に探りを入れる人が多かったんですよね。本当に親付き合いで疲れてしまいました」

Cさんによれば、何人かの親が小学校内で良い「ポジション」を獲得するためか、わが子の通う塾の情報を喧伝したり、成績や志望校をひけらかしたりすることがあったという。

このような「マウンティング」はいわゆる名門公立小学校でよく聞く話であり、特異な例ではない。

■親同士の軋轢、そして、子どもたちのトラブル多発

また、同じ世田谷区にある別の名門公立小学校では6年生という受験期にこんな問題が勃発した。母親Dさんがそれを教えてくれた。

「ウチの小学校の子たちの大半は駅前にある『大手塾』に通っているのです。そこの大手塾の学力別クラスの変動や成績を小学校内に持ち込む子どもたちが大勢いて、それをきっかけにいじめ問題が起こってしまったんです」

この小学校の校長は事態を改善するために、そこの大手塾の責任者と「面談」までおこなったという。親同士の軋轢、そして、子どもたちのトラブル……。名門小学校だからといって良い教育環境が保証されているわけではないのだ。

■各区の私立中学受験率の低い小学校の長所・短所とは?

では、中学受験率が比較的低いエリアにマイホームを持ったほうが、むしろ子どもの教育環境がいいということかと思うが、そうは言い切れないようだ。

「とにかく担任の先生に腹が立って仕方がありませんでした」

こう振り返るのは大田区の公立小学校に通学していた息子さんを持つ母親Eさんだ。この学校の中学受験率は10%程度だったが、担任の中学受験生に対する扱いがひどかったらしい。

「受験間際になって膨大な宿題を出してきたり、生徒全員の前で娘が塾通いしていることについて皮肉めいた発言をしたり……わたしもそうですが、何より娘が精神的にまいってしまいました」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/taka4332)

中学受験率の高い学校でこの手の話はめったに耳にしない。こうしたふるまいをした途端、大半の親を一気に敵に回すことになるからだ。練馬区の受験率20%程度の公立小学校に息子さんが通っていた母親Fさんはこう愚痴る。

「わが家は息子に中学受験させるつもりでいたのですが、息子と仲のいい子たちはみんな地元の公立中学校へ進むんです。だから、いざ塾に通っても、その事情を理解していない友達からの誘いを断れず、結局、中学受験は断念しました」

世田谷区の公立小学校に娘さんが通う母親Gさんは受験率の低い学校のデメリットに言及した。

「娘の通った小学校の中学受験率は10%くらい。中学受験のために塾通いするような子は『異端児』として扱われるんです。そうなると、娘としては塾に『通わされている』という感覚になってしまうのです」

そうは言うものの、Gさんは総じて小学校には満足感を抱いているという。のんびりとした雰囲気であり、娘さんは気の合う友人と楽しく過ごしていたと言い、親同士のトラブルもほとんどなかったという。

■わが子に最善の小学校を見つけるために

こうした話を踏まえるとわかるように、万人にとって「良い小学校」は存在しない。私立中学受験率が高くても低くても、それぞれメリットとデメリットがあるからだ。「学区」を選択する際には、家庭の教育方針を熟考したうえで、そして、できればその小学校の在校生・卒業生の保護者にリサーチした上で決めてほしいと思う。

(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平 写真=iStock.com)

引用元:BIGLOBEニュース

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