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フランス在住の日本人ライターが「この国ならもう1人育てられる」と思ったワケ

日本の少子化に歯止めがかからない。国の調査では、理想の数の子どもを持たない理由として、約8割が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えている。フランス在住のライター髙崎順子さんは「フランスでは、お金を理由に出産を諦める人は少ない。フランスのやり方は日本の参考になるのではないか」という——。
写真=iStock.com/SerrNovik
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/SerrNovik

■子どもを諦める理由は「お金がかかるから」

「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」

これは、35歳未満の日本の夫婦が、理想とする数の子どもを諦める理由の第一位だ。

内閣府が昨年公開した「少子化社会対策白書」(令和2年版)には、50歳未満の初婚同士の夫婦を対象にした「子どもの数」に関する2015年の調査結果が掲載されている。理想とする子どもの平均数は2.32なのに対し、実際の子ども数の平均は1.68。調査年の日本の合計特殊出生率1.45よりは多いが、理想とは開きがある。なぜ理想の数の子どもを持たないか、との問いに、35歳未満の回答者の約8割が、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えた。

内閣府の別の調査によると、子ども1人を1年間育てるのに、未就学児は約104万円、小学生は約115万円、中学生は約156万円かかるとされている。これは公的機関の関連資料では最も新しい数字だが、それでも2010年のものだ。消費税率が5%から10%に上がり、新型コロナの影響が著しい今では、世帯の負担感は一層重くなっているに違いない。昨年12月に東京地方労働組合評議会がまとめた調査では、東京都の住宅地・練馬区で就学前児童・小学生の2人の子どもを夫婦が育てるには年間650万〜960万円が必要になる、との実態が明らかになり、こちらも大きな話題を呼んだ。

■「親になる」決断をするには不十分な児童手当

国税庁によると、「1年を通じて民間企業に勤務した給与所得者」の平均年収は436万円(男性540万円、女性296万円、2019年)、中央値はさらに数十万円少なくなる。この実態から上記の子育て費用を考えると、「高すぎる」の声もさもありなん、と思えてしまう。

子育て家庭を支援するため、現在国は、中学校卒業までの児童を養育している人を対象に、子ども1人あたり1カ月に、3歳未満は一律1万5000円、3歳以上小学校修了前までは1万円(第3子以降は1万5000円)、中学生は1万円の児童手当を給付している(養育者の所得が所得制限限度額以上の場合は、特例給付として月額一律5000円を支給)。しかし「高すぎる」経済的負担の前で親になることを決断するには、十分とは言えない現状だ。また、高所得世帯の特例給付を廃止する児童手当関連法改正案が、今年2月2日に国会に提出されている。

■「もう1人産めるかな」と思えるフランス

かくいう筆者はフランスで男児を2人産み、親子4人で暮らしている。中学生と小学生を生かし続けていくだけでも、お金は日々湯水のように消えていく。服はあっという間にサイズアウトし、靴は数カ月でボロボロになる。パスタは500gパックが1食で消え、これから先を考えるとゾッとする毎日だ。仏調査研究政策評価統計局が2015年に公開した資料によると、子どものいるカップル世帯の年間の生活費は、子どものいないカップルのそれより約8400ユーロ(約105万円)ほど高くなっているそうだ。

しかし私自身が子育てを長期的に考えて、お金が「かかりすぎる」という実感は、正直言って薄い。フランスの公立校は大学まで無償で、調理や美容、工業などの職業専門校も、公立校であれば学費はかからない。塾通いの文化はなく、習い事は自治体や非営利団体の運営が主流で、かかっても年間数万円程度だ。

妊娠確定から分娩までの医療費も無償化されているので、1人目の時も2人目の時も、費用の不安から「産むかどうか」を迷ったことはなかった。しかもフランスの所得税は、子どもが増えるほど世帯への掛け率が低くなる仕組みで、「産んだら税金がおトクになる」とのイメージすらあった。出産後には国から受給できる手当金が数種類あり、ほっと胸をなで下ろしてこう思った。これなら育てていけるだろう、もう1人産めるかな、と。

写真=iStock.com/FollowTheFlow
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FollowTheFlow

■「お金を理由に子どもを諦める」ことは少ない

そしてこれは私の個人的な感覚ではなく、社会に共通しているものだ。

フランスにも日本と同様に、理想とする子どもの数の調査結果がある(2013年)。平均数は2.4、同じ年の合計特殊出生率は1.99だった。理想と現実に開きはあるが、その幅は日本よりずっと小さく、この差の小ささは欧州でもトップクラスだという。理想の数を持たない理由は、「今から産むには高齢すぎると感じたから」が全体の33%で第1位、「お金がかかりすぎるから」は「住居が狭すぎるから」と並んで2位だったが、どちらも答えた人は全体の28%だった。

フランスだって、子育てはお金がかかる。が、それが原因で子を諦める人々は、多数派ではない。子どもがいても金銭的に詰まない、なんとかなる、との認識が一般的なのだ。

「お金がかかりすぎるから」と、子どもを諦める人々の割合が、日本は8割、フランスは3割弱。この両国の違いは、どこから来ているのだろう。同じ21世期の資本主義先進国、G7に名を連ねる国同士で、子どもをめぐる経済感覚にこれだけの差が出る背景には、何があるのだろうか。

■日本の2倍、子育てにお金を出しているフランス

「お金がかかりすぎるから、子どもを持てない」日本と、「お金はかかるが、子どもを諦めるほどではない」フランス。両者の違いを考える際、象徴的なデータがある。子育て支援まわりの政策に国が注ぐ支出の、対GDPの割合だ。平たく言うと「各国が子育て世帯のために、どれだけ国としてお金を使っているか」を示す指標である。

OECDがまとめた2015年度のデータ(OECDファミリーデータベース)では、フランスは3.68%、日本は1.61%。割合にしてフランスは日本の2倍以上、子育て支援にお金を出しており、これはOECD加盟32カ国中でもトップだ。

しかもフランスには、国が「子育て支援にお金を使うために」と作った専用組織が存在する。『家族手当金庫 Caisse d’Allocations Familiales』、通称CAF(カフ)と呼ばれる公的機関だ。政府や省庁から独立し、かつ彼らと連携して、フランスの家族の実態を把握し、必要を分析し、お金の使い方を検討する。国家戦略を司るトップオフィスをパリに、給付手続きを行う独自の地方窓口をフランス全土101県に展開し、3万人以上のスタッフが働く巨大組織である。手掛ける支出額は年間10兆円を超える。

フランスの子育て支援の国策は3本柱で、保育所や学童クラブなど「育児支援サービスの提供」、手当金など「公的補助金の提供」、そして子育ての必要経費を減税で補塡(ほてん)する「税制対策」に分かれる。家族手当金庫が担当するのは、このうち2本の「育児支援サービス」と「公的補助金」の提供だ。

■子ども手当が「10種類」もある

先進国で最も子育て支援にお金を使っているフランスでは、その仕組みにも大きな特徴がある。全国共通の手当金の種類が多く、バラエティ豊富なことだ。子どもの年齢や世帯内の子どもの数などの世帯タイプ別、保育費援助や新学期援助など目的別に、「子ども一人頭の手当」だけでも10種類に上る。うち4種類は給付条件に所得上限があるが、その他の6種類は高所得世帯でも受給できる立て付けだ。受給に親の婚姻関係は問われず、事実婚でも扱いは変わらない。そしてこの10種類の子ども手当とは別に、ひとり親への手当や障害児療育手当、住宅手当があるのだそうだ。

写真=iStock.com/sal73it
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/sal73it

「フランスでは、子育ての経済的負担を減らすために、国が家族を助けるのが当然と考えられています。そしてその家族はどんな形でもいいんです。支援を受けるにあたり、『家族とはこうあるべき』という倫理的な条件付けはない。子どもを育てるためにお金がかかる事実は、家族の形にかかわらず、変わりませんから」

家族手当金庫のトップ組織、全国家族手当金庫(CNAF)の国際部長フレデリック・ルプランスさんは言う。諸外国と情報交換し、いい制度があればフランスに取り入れるべく政府に進言する部署だ。昨今は養育費を政府機関が立て替え・代理徴収するカナダのシステムを参考に、家族手当金庫の新制度として施行したそうだ。

■日本の子育て支援は「市町村が担うもの」

それにしても、子ども手当だけで10種類とは。筆者自身もそのうち3種類を受給しているが、そこまで種類が多いとは知らずにいた。

「さまざまな形の家族に何がしかの援助を送るには、それだけバリエーションが必要です。日本には、国の子ども手当は何種類あるんですか?」

そう興味津々に逆質問されて、筆者は一瞬言葉に詰まってしまった。「児童手当法」で定められた全国共通の子ども手当は、「児童手当」1種類だからだ。

とはいえ日本の子育て支援金は、児童手当だけではない。

まず日本では、「子ども・子育て支援法」によって、子育て支援は主に地方公共団体、特に市町村が担うものとされており、都道府県や国は法整備や助成金でその円滑な運営を支える、という分担がある(※)。

※参考文献:渋谷博史、塚谷文武、長谷川千春著『福祉国家と地方財政-改訂版』(学文社)

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Sushiman

それらの子育て支援事業にはひとり親への支援金(児童扶養手当)や医療費助成のような全国規模の制度もあれば、各市町村が独自に行う事業も多い。例えば東京都品川区は、区民対象の生活支援給付金を、中学生以下の子どもには増額して実施している。支援はもちろん金銭援助だけではなく、保育所や児童館などサービスの形でも行われる。

■地域のニーズに合わせられる一方で、地域格差も広がる

自治体主導で支援するメリットは、地域の特性やニーズに合わせた形が編み出せることだ。一方、同じ国内でも、住む場所により得られる支援が異なってしまう地方格差問題もまた指摘されている。参議院が2012年に発表した経済調査資料では、国の関与する家族関係給付の5割を超える規模で、地方の単独事業が行われていることが明らかになった。日本全国で子育て支援に使われている約3分の1の金額が、住む場所によって享受できる人とできない人のいる事業に注がれている、ということだ。

「フランスが子ども手当を国レベルで行う理由が、まさにそれですね。私たちの国の現金給付には、“同じ国内に住む市民は、同じ手当を得る”という原則があります。財源に国家予算や国の徴収する税金が入っているなら、なおのこと。それは地域を問わず、全国規模で公正に給付されるべきと考えます。もちろん自治体独自の事業は存在しますが、国のそれとは規模が全く異なりますね」

日本の状況を説明する私に、前述のルプランスさんはそう答えた。

■子育て支援は「社会の制度を持続するため」に必要

「フランスの家族手当にはもう一つ、重要な原則があります。家族手当は国の社会保障制度に含まれ、それは縦・横二つの軸で分配すべし、というものです」

社会保障制度とは、国民の日常生活で起こるリスクを社会全体でカバーし、生活をより安定させるための仕組みだ。制度の中には、病気やけがなど健康リスクに対する医療保険や介護保険、失業リスクに対する雇用保険などがある。そのリスクはいつ誰に訪れるか分からないから、現時点では順風満帆な人も、制度を維持するために保険料を払う。経済的に余裕のある人がそうでない人より多めに保険料を払うのが「縦軸の分配」で、現時点でリスクのない・少ない人も多い人とともに担うのが「横軸の分配」だ。

フランスの家族手当は保険制度ではないが、支援の考え方の基盤には、このようなリスクと分配の考え方がある。

「フランスでは子育てにかかる費用は、社会でカバーされるべきリスクと考えられています。年間で100万円以上の追加費用が発生する案件は、その世帯には間違いなく、日常生活の安定を脅かすリスクです。しかもその案件は、国の社会保障制度全体を維持・継続していくために、誰かが背負わなくてはならない。そのリスクを背負う人を社会全体で助けるのは当然と、フランス市民は理解しています。子どもを持たない人も子育てを終えた人も、みんなで、です」

写真=iStock.com/StockByM
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子を持ち育てる人が「世代を更新」するから、社会の制度を持続させることができる。その認識が明確に共有されているため、フランスでは国が子育て支援に大きな支出を割くことに、異論を挟む声はないそうだ。それはフランスという国にとって、その国民の生きる社会にとって、当たり前に必要な役割分担だから、と。

■「高所得層への給付額減額」で起きた大ブーイング

そんなフランスでも、子ども手当を縮小方向に改正したことがある。2015年、それまで2人以上の子どもを持つ全世帯に所得制限なく同基準で給付されていた手当を、高所得者には給付額を減らす形にし(給付自体はある)、節約できた分を保育所整備資金に充てる方策が取られた。共働きが多い富裕層は月数万円の手当金より、良質の保育所を増やした方が支援として実効性が高いだろう、との判断だ。

しかしその改正は子育ての当事者・支援団体に大ブーイングを呼び、2015年よりフランスの合計特殊出生率が微減少傾向に転じたことの原因とまで言われている。

「その因果関係を立証する十分な要素はない、誤った議論だ」とルプランスさんは否定するが、それだけ国が家族政策にお金をかけることへの社会的合意が強い、とも言える現象だろう。

子ども手当に代表されるフランスの家族政策は毎年検証・分析が繰り返され、国民の生活の変化へも迅速に対応し、こまめな微調整がなされている。新型コロナの感染拡大に伴う社会不安の増大にも、数々の手が打たれた。そのダイナミズムは、家族支援が国家運営の重要事項であるという、国民の共通認識に支えられている。そしてその共通認識が、一つひとつの家族と、そこで生きる子どもたちの助けとなっている。

■日本が目指す合計特殊出生率は、フランスの今

子育てにまつわる家庭の経済的負担が、社会全体でカバーすべきリスクと認められているフランス。先進国で最も子育て支援にお金を注ぐ国の発想法は注目に値するが、実は日本にも数年前、似た発想で国の制度を変えようとした政治家たちがいた。

子育ての経済的リスクを社会で認め、保険制度で財源を確保・分配しよう——2017年、自民党の若手議員らが発案した「こども保険」制度だ。

その後の消費税増税や幼児教育・保育無償化の流れの中で、こども保険案は残念ながら立ち消えになってしまった。子育ての経済的負担は保険制度でカバーすべきリスクと認められない・他のやり方をするべきだ、との声も多かった。

しかしこのこども保険の試みを、筆者はとても心強く感じた。「子育てにお金がかかりすぎる」ことが子を望む人々にブレーキを掛けている実態を真正面から捉え、国の子育て支援支出金が他の先進国と比べて少ない事実に向き合ったのだ。それらに対し「ならお金を工面しよう」と財源論まで踏み込んで直球を投げ返そうとした姿勢は、画期的だった。是非また機を見て、「子育て支援のための財源をどう確保するか」が日本社会に問われ、議論されてほしいと願う。

子どもを持ちたいと願いながら、諦める人々を、一人でも少なくできるように。

子育ての経済的リスクに国が対処しているフランスの、最新の合計特殊出生率は1.86。合計特殊出生率1.36の少子化大国日本で、政府が掲げる目標値は、まさにその1.8である。

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髙崎 順子(たかさき・じゅんこ)
ライター
1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)などがある。
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(ライター 髙崎 順子)

引用元:BIGLOBEニュース

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